

SOLD OUT
長谷川ちえ
2023年 アノニマ・スタジオ
四六判 ソフトカバー 216ページ
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福島県三春町で雑貨店「in-kyo」を営む長谷川ちえさんによる日記。
本書には2021年2月、
立春から始まる1年間の暮らしが綴られる。
”二十四節気の流れの中でたんたんと繰り返される私の暮らしは、特別なトピックや大きなニュースなどはありません。地味といえば地味でしょう。
でもだからといって私自身は飽きるということもなく、むしろ繰り返すことで
本当の意味でもおもしろみや豊かさのようなものが見えてくるのではないかと思っています。”
(p.3より)
*
心に残ったのは「清明」(4月4日〜4月19日)の日記。
この地方では4月頭に雨を「花おこしの雨」と呼ぶそう。
雨によって桜が目を覚まし、花が咲く合図。
まだ見ぬ桜の花を思うと
ジメジメした雨でも、心地よい諦めがつくだろう。
どんよりした気分になる雨にも、
自然の摂理をあらわす言葉が与えられている。
ささやかな言葉ひとつに
長い年月を経て降り積もった人びとの知恵が詰まっている。
きれいだなぁ。
ちえさんにとって2021年は、特別な春だった。
梅、桃、桜、「三つの春」がほぼ同時にやってきたから。
「花おこしの雨」によって早まった桜の開花が
「三春」という町の名前通り、特別な春を連れてきたのだ。
*
季節のシンボルは毎年変わらず訪れるが
全体的な風景は変わっていく。
そのしくみは完全にわからない。
でも、うつろう季節と、生活の中でそれを感じている人は美しいなーと思う。
「今年は登別の桜が早くて、白老は遅いね」
と教えてくれたのは、自然ガイドのゆみこさん。
「足悪くなったけど、今年も京都に桜を見にいったよ」
と嬉しそうに話していた、食堂さとちゃんのおばちゃん。
周りのすてきな人たちを思い出しました。
いまの時期、近所では八重桜に葉っぱがつき始めているころ。
今日の陽気な日光に照らされ、ツツジとともに眩しいピンクを放っている。
『三春タイムズ』
どの季節にも読みたい一冊です、ぜひ。