

寺尾紗穂
2021年 スタンドブックス
四六判 ハードカバー 320ページ
2420円
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【出版社より】
自分の中の子供。目に見えぬもの。聞こえない声。長女が天使に出会った日から始まった、まぼろしのようでいて、確かな日々の記録。
唯一無二の音楽家・文筆家による言葉の到達点。エッセイ49編。
「目に見えるもの以外あるわけない、という断定は、シュタイナーが説いたように理想主義の否定でもある。人が今あるもの、手でつかめるものしか信じられなければ、愛がいったい何であるかも捉えることはできないし、世界をより良く変えていくこともできない。自分には聞こえていない声があり、見えていない世界があるかもしれないと振り返ること、まっさらな心で自然に向き合い、人に向きあうこと。現代を生きる私たちがそれを忘れ、何かに流されるように生きているのだとしたら、立ち止まりたいと思う。そのことにすでに気づいた人々にならって、私は人と一緒に生きたい、と思う」(「あとがき」より)
『彗星の孤独』(スタンド・ブックス/2018年)以来の最新エッセイ集。
目次
Ⅰ
子供でいること
北へ向かう
スーさんのこと
目に見えぬものたち
歌とジェンダー
遠くまで愛す
霧をぬけて
闇と引力
天使日記
Ⅱ
あくたれラルフ
馬ありて
タレンタイム
モンゴル民謡
それでも言葉は優しくひびいて
聞こえざる声に耳を澄まして
市子さんとモランのこと
おあずけの抒情 矢野顕子の童謡
異端者の言葉
ブラジル移民をめぐって――水野龍からブラジル版五木の子守唄まで
パラオ再訪
Ⅲ
山形 カブのわらべうた/吉野 大蔵神社/飯塚 炭鉱の光/足柄 金太郎の周辺/赤穂 海を眺めて/札幌 父の残像/福岡 降り止まぬ雨/今村 キリシタンの教会にて/本郷 アイヌと大神/滋賀 「売国」という言葉/会津 たよりないピアノを前に/名古屋 再会/私への旅/周防大島 尊厳と能動性/東京 ここには居ない誰かについて/ソウル こんなところで子供を産めない/大阪 「あかるさ」へ向かう/阿賀 新潟水俣病/鎌倉 墓参り前後のこと/金沢 ローレンス/阿賀 富と貧しさ/パラオ ひとまずおく/札幌 奥井理ギャラリー/モンゴル シベリアマーモット/玉川上水 あるダンサーの話/長島 愛生園/東京 山谷ブルース/大阪 そのままを認める/東京 コロナ
あとがき
寺尾 紗穂 (テラオ サホ) (著)
音楽家。文筆家。1981年11月7日東京生まれ。大学時代に結成したバンドThousands Birdies’ Legs でボーカル、作詞作曲を務める傍ら、弾き語りの活動を始める。2007年4月、ピアノ弾き語りによるメジャーデビューアルバム『御身』(ミディ)が各方面で話題になり、坂本龍一や大貫妙子らから賛辞が寄せられる。大林宣彦監督作品『転校生 さよならあなた』(2007年)、安藤桃子監督作品『0.5ミリ』(2014年/安藤サクラ主演)の主題歌を担当した他、CM、エッセイの分野でもなど活躍中。新聞、ウェブ、雑誌などで連載を多数持つ。2009 年よりビッグイシューサポートライブ「りんりんふぇす」を主催。坂口恭平バンドや、あだち麗三郎、伊賀航と組んだ3ピースバンド「冬にわかれて」でも活動中。2021年、「冬にわかれて」および自身の音楽レーベルとして「こほろぎ舎」を立ち上げる。
著書に『評伝 川島芳子』(2008年3月/文春新書)、『愛し、日々』(2014年2月/天然文庫)、『原発労働者』(2015年6月/講談社現代文庫)、『南洋と私』(2015年7月/リトルモア)、『あのころのパラオをさがして 日本統治下の南洋を生きた人々』(2017年8月/集英社)、『彗星の孤独』(2018年10月/スタンド・ブックス)、編著に『音楽のまわり』(2018年7月/音楽のまわり編集部)がある。
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【またたび文庫の感想文】
寺尾紗穂さんのこと。
「歌が生まれる場所」
昨日は、奈井江町で開催された寺尾紗穂さんのライブへ。
昨年9月の帯広以来、およそ8ヶ月ぶりのこと。
いちファンとしてはとてもありがたいことに
出店という形でかかわらせていただいた。
ライブの高揚があとを引いているので
書いて鎮静させようと試みます。
*
寺尾さんは音楽家・文筆家。
2007年に「御身」でメジャーデビュー、
今までに計10枚のアルバムをリリース。
著書は、計6冊。パラオの民俗研究や随筆などを出版されている。
ご自身の曲のすばらしさはもちろんのこと
寺尾さんは
日本各地に残されたわらべうたをアレンジし、世に出している。
土地で生き抜くための
労働、人のかかわり、体のリズム、季節の過ごし方。
誰もが歌えるメロディに乗せた言葉の
素直なうつくしさといったら。
あっけらかんとした明るさとかなしみが
同時に発散されていく。胸を打つとはこのことか。
透き通るようで、それでいてパワーのある声。
寺尾さんの声で運ばれる歌たちは
どれも心に直接語りかけてくるようだった。
*
斜里の開拓期を生きた女性の詩を歌にした
「流した涙の数だけ美しい虹がたつ」。
寺尾さんは、ライブまえに時間があると
その土地の図書館へ足を運び、郷土資料本をひらく。
斜里にて、同タイトルの詩集をみつけた寺尾さんは
すぐにメロディをつけて曲にしたという。
跳ねるリズムが印象的なあかるいメロディ。
だがそこにのせられる詩は、正面から受け止めるには辛いものだった。
厳しい冬を生き延びるため
人びとははたらき続ける。
当然のように、死と隣り合わせである。
過酷な現実をあらわした詩を、
歌というかたちでまるくする。
強い言葉が不思議とうつくしく聞こえるのだ。
彼女たちの魂を、純度のたかい形に精製し、こころに届けてくれるような。
とにかく昨日のあの歌は素晴らしかった。
*
もっと語りたくなる気持ちをおさえて本の紹介を・・・
『天使日記』は、寺尾紗穂さんによる随筆集。
なかでも同タイトルの随筆は
「天使」に出会ったという、寺尾さんの娘のひとことから始まる。
2017年4月7日からおよそ三ヶ月にわたり、日記は淡々と綴られる。
目に見えない存在と過ごす娘の生活について、記録を考察を重ねる寺尾さん。
天使の様子の変化に、当時の世間・日常の状況を照らし合わせる。
聖書の話、シュタイナーの引用などが自然と入り込み、
ウィットに富む読み物としてすごく面白い。