

SOLD OUT
2023年 有限会社エディトリアル・デパートメント
B5判 ソフトカバー 256ページ
1320円
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【出版社より】
特集:自己啓発のひみつ
「これを読めば、あなたの人生が変わります」
そんな甘いことばで誘い、心を惑わす自己啓発メディア。
自分とは無縁だと思っていてもSNSやアプリを介して届けられ、気づかぬうちに〝自分みがき〟をさせられていたりするから、やっかいだ。
自己啓発の文化は社会にも深く浸透している。
自助、教養、自己肯定感、ポジティブシンキング…。
成長や改善を促すこれらの言説は、いつどのようにして根づいたのか?
ルーツを辿ってみると、そのタネは明治の頃に早くも蒔かれていたことが…。
経済低成長時代に入り、いっそうの努力や向上が求められる社会のなかで、ひとり迷子にならないために、いま知っておきたい自己啓発のひみつ。
特集:自己啓発のひみつ CONTENTS
◆まんが「自己啓発って何だろう?」
哲学者エマソンからカーネギー『人を動かす』まで。自己啓発の文化史をストーリーまんが仕立てで
作画/関根美有
原作/赤田祐一(編集部)
◆インタビュー1「自己啓発が流行りつづける背景」 真鍋厚(評論家)
アップルウォッチ、マインドフルネス、推しカルチャーなど、デジタル周辺の自己啓発文化を語る
取材・構成/鴇田義晴
◆インタビュー2「日本・修養・自己啓発」 大澤絢子(学者)
『「修養」の日本近代 自分磨きの150年をたどる』(NHK出版)をもとに、「修養」と「自己啓発」の関係について聞く
取材・構成/横戸 茂
◆インタビュー3「眼ざめよ! エマソン」 齋藤直子(学者)
『自分を変えるということ アメリカの偉大なる哲学者エマソンからの伝言』(幻冬舎)をもとに、「北米の自己啓発の起源」について聞く
取材・構成/赤田祐一(編集部)
◆ブックレビュー「自己啓発書をまとめて読んでみた」
サミュエル・スマイルズ『自助論』から、堀江貴文『多動力』まで。新旧取り交ぜた啓発書30冊を解説
選書・執筆/桜井通開
イラストレーション/ぱやの
◆論考「自己啓発のパラドックス」
『思考のための文章読本』(ちくま学芸文庫)著者による、自己啓発がはらむ問題性の指摘と、社会全体でどう対処していけばよいかの提言集
文/花村太郎
イラストレーション/芳川ミコ
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【またたび文庫の読書感想文】
今年3月発売のスペクテイター最新号。
スペクテイターからもっとも遠そうな存在、自己啓発。
いわゆる自己啓発本は、物事を単純化していく印象がある。
あらゆる漠然とした悩みに対して「これが正解です!」と提示する。
著者のことばに従って行動しなさい!という
ある種のプレッシャーすら感じる。
自分の頭で考えることを全否定されているかのような。
*
スペクテイターはその逆。
特集テーマについて、どんどん解釈の幅が押し広げられていくのだ。
全体観はつかめた気になる。
けれど、そのテーマについて一言で表すのは余計に難しくなる。
大きな時代の流れ、影響を与えてきた人物、店、本、音楽、食・・・
個々のアクターの動きによって、形成されていく現在進行形のカルチャー。
スペクテイターの職人技は、
複雑なカルチャーの流れを系統だてていく鋭い視点にある。
読み終えたあとには独特のカタルシスが残る。
”この部分がきになるから、原著に手を出してみよう。”
もっと知りたい、深めたい。知的好奇心の入り口に立たせてくれる最高の友。
それがスペクテイターなのです。
*
対極なスタンスをとるように見える両者。
スペクテイターはなぜ今になって「自己啓発本」を取り上げるのか?
ある日のこと。
編集部の赤田さんは書籍売り上げランキングを眺めていた。
2022年上半期、売り上げトップ20のうち8冊が「自己啓発」ジャンルの本。
ここまでの偏重ぶりには赤田さんも驚いた。
「このまま行くと、日本はどうなるんだろう?」
赤田さん自身がこれまで手に取ることのなかった自己啓発書。
50冊以上を買い求めてリサーチを行う。
識者へインタビューし、「自己啓発」なるものの起源を求める。
そして、明治以降の日本の「修養」、
米国の大陸文化・キリスト教から派生した宗教的価値観にヒントを見つける。
*
個人的には
エマソン研究者の齋藤直子さんへのインタビューに感銘を受けた。
米国の思想家に影響を与えたエマソン。
彼は、単純化ではなくむしろ
対立する思想の複雑性の中に身を置き続けていた。
たとえば「自分自身」について。
エマソンは「自分の核なんてものはない」という。
常に自分の性質を打破しながら蛇行していくような
イメージをもっていたのだとか。スクラップアンドビルドってやつ。
「本当の自分」を見つけて幸せになろう、という ”自己啓発”的な価値観。
しかし、当のエマソンは真逆な考えを持っていたのだ。
これまでカウンターカルチャーを取り扱うことが多かったスペクテイター。
第51号にして、ど真ん中のカルチャーに足を踏み入れた。
これは、エマソンの自己観に近い動き方なのではないか。
*
まったく違うように見えていた
スペクテイターと自己啓発の思想。
ところが、歴史の中に深く潜ると
その源流の一つに繋がりが導き出される。
ちゃんと調べて考えることで
あらゆるものは面白く、肯定的にみえてくる。
職人技としか言えない素敵な誌面構成に
今回も、ひとり感動してしまった。
あらためて、最高のコンテンツだなぁとしみじみ思う。
ぜひ!!