

今福龍太
慶応義塾大学出版会 2019年
四六判 ハードカバー
210ページ
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【出版社より】
▼シリーズ「世界を読み解く一冊の本」(全10巻)、第六弾。
▼ボルヘスのアルター・エゴである「虎」を追い、その謎に迫る。
▼「バベルの図書館」にまつわる絵画やボルヘスの生きた町、数々の原書や翻訳書の版(エディション)などを豊富な図版で紹介。
幻想小説の巨匠ボルヘス(1899-1986)による20世紀文学の傑作中の傑作『伝奇集』。この巧智あふれる短編集に向き合い、多彩な謎を鮮やかに取り出して再-物語化しながら、虎、無限、円環、迷宮、永遠、夢といったテーマをめぐる探究を読者に誘いかける。ボルヘスのパーソナルヒストリーや『伝奇集』の翻訳史とも照らし合わせつつ、ボルヘス流の仮構やたくらみを創造的に模倣しながら読み解く、画期的なボルヘス論!
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【またたび文庫の感想文】
アルゼンチン出身の作家・詩人
ボルヘス(1899-1986)。
円環、宇宙、虚無、無限、夢、迷宮などをモチーフにした
短編小説を残した。
彼の作品は、60年代のラテンアメリカ文学ブームの流れで評価が確立された。
その後、80年代以降のポストモダン思想を牽引することとなる。
『伝奇集』は、彼の代表的な作品をあつめた短編集。
「円環の廃墟」「バベルの図書館」など19編を収録している。
*
大学時代に読んだ「バベルの図書館」を思い出した。
そこは、この世の全ての本が存在する図書館。
再現なく上まで続く六角形の回廊。その壁に本棚がある。
人びとは回廊を上下左右しながら本棚を行き来する。
一段の本棚には、32冊ずつ本がならんでいる。
すべて同じ判型、410ページの本。
全ての知識が図書館につまっている。
そのことに、住民たちは歓喜する。
自分が「全知全能の神」になれるかもしれないから。
さらに住民たちは、蔵書の中に特別な本があることを知る。
その名も『弁明の書』。
あらゆる人間の行為を弁明し、未来をひらく秘密が書かれている。
人間たちはその一冊を探し求めて争いをはじめる・・・
*
図書館の中で繰り広げられる社会風刺に、当時のわたしは衝撃をうけた。
無限という得体のしれないものを前にあらわになる人間の暴力性。
静謐で幾何学的な「図書館」の風景。
聖書における啓示のような風格をもちつつ
複雑な仕掛けが設計された短編作品である。
それはとても、「世界観」などという一言でかたづけられない。
*
そんなボルヘスの作品に取り組むのは
文化人類学者・批評家の今福龍太氏。
2002年より、「奄美自由大学」を主催。
群島というフィールドにおける遊動的な学びを探究している。
”ボルヘスの『伝奇集』についての本を書くことのスリルとはまさに、
それが個別の著作でありながら、普遍的宇宙を丸ごと包み込んでいるからなのである。”
ボルヘスの著作と照らしあわせながら、
読み深めたい一冊。
ぜひ。