

折口信夫
國學院大学折口博士記念古代研究所 監修
岡野弘彦 編
慶應義塾大学出版会 2019年
四六判 ハードカバー 228ページ
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【出版社より】
『精選 折口信夫』の巻立てにそうように、折口信夫の姿を写真類で再構成するとともに、いままであまり知られていない書画、折口蒐集の歌舞伎絵はがきなどを紹介する。年譜、主要著書目録等も付す。
わが子・我が母(Ⅴ 随想ほか・迢空詩編)
水の女(Ⅰ 異郷論・祭祀論)
日本の創意(Ⅱ 文学発生論・物語史論)
短歌本質成立の時代(Ⅲ 短歌史論・迢空短歌編)
翁の発生(Ⅳ 芸能史論)
師・友・弟子との交遊、晩年
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【またたび文庫の感想文】
日本民俗学の源流をつくった折口信夫(1887-1953)。
本書は、旅と探究に生きた折口の人生を辿る内容である。
豊富な写真資料と
彼自身のことばから、彼の人生と研究の流れを知る。
母についての思い出、3回にわたる沖縄採集旅行、
「日本文学発生論」、養子・春洋を戦争でなくしたこと、
「短歌史論」、友人・堀辰雄、室生犀星、柳田國男との対話。
*
本書には折口の採集旅行の内容が
事細かに記されている。
彼は人生で沖縄へ3回赴き、
信州や東北の山間へもよく出かけている。
呪詛師、シャーマンについて
深く関心を寄せていたのがわかる。
近代的合理精神のはざまで
続けられていた各地のおまつり。
自然や死者の世界とつながる術を、ふつうの民はもっていたのだ。
折口は詩人である。
彼は調査においても
霊や神、言葉以前の存在を受け止める
鋭い感受性を持っていたのだろう。
*
折口は危ういエピソードを多数もっている。
少年期に3度の自殺未遂を図ったことがある。
昭和初期の数年間、コカインを愛用していた。
奈良県室生寺を訪れた際
奥院で自殺を図った釈契沖に、彼は深い共感を覚えた。
そして自らも自殺の誘惑にかられたという。
死や霊魂が自分に差し迫ってくる・・・
そういった切実な経験を、彼はもち続けていたのであろう。
彼は、研究結果としてはなく
自らの実体験として「まれびと」を発見したのかもしれない。
*
編者・岡野弘彦氏は、折口信夫主宰の短歌結社で学んだ歌人である。
晩年の折口氏を世話し、その最後を看取った。
折口氏の「最後の弟子」と評される岡野氏。
「精選 折口信夫」シリーズは、彼の企画編集によるもの。
本書は、全6巻のうちの最終巻です
ぜひ。