

SOLD OUT
最相葉月
みすず書房 2023年
四六判 ハードカバー
236ページ
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【またたび文庫の感想文】
統合失調症研究で多くの成果を残した精神科医・中井久夫(1934-2022)。
全11巻にわたる「中井久夫集」の解説をもとに、彼の人生や仕事についてまとめられている。
もともとウイルス学の専門だった中井が、
精神学の領域において実践した「関与しながらの観察」。
患者の感情や体調の動向を、特異・常時に分類せず、淡々と記録していくものである。
その手法は、アメリカの精神学者・サリヴァンの論を継承する姿勢である。
当時、とても難解といわれていたサリヴァンの理論の翻訳を成し遂げた中井。それだけではなく、患者と向き合う姿勢すら受け継いで仕事をし続けた彼の感性も、医学界への大きな貢献となったのであろう。
”焦慮の極みから下山しようとする患者の歩みに目を凝らし、リハビリや社会復帰のあり方に心を配り、治ることは働くことかと問いかける” (p.24)
患者の病を、「人ごと」とは思えない。
その感覚をもち続けている中井さんの医師人生は真摯で、きれいだなぁと思った。ぜひ。